前々から面白いなあと思っていた言語習慣の違いです。
中国語圏からの観光客も多い東京都庁展望台のトイレにて。

温馨 wen1xin1:心遣いが暖かい。気候が暖かで花などのよい香りがする。
提醒 ti2xing3:何かを忘れないように注意を与える、指摘してあげる、ヒントを与える。
日本語のマナーポスターなら、「お願い」というタイトルが付いているかと思います。もしくはタイトルなしかな。
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お願い
トイレットペーパーは水に溶けます
ご使用後はそのまま便器に流してください
ご協力ありがとうございます
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これを日文中訳しなさいと言われたら、〈提醒〉というタイトルにしてすましてしまいそうです。〈提醒〉というのは簡潔で使い勝手がいい言葉ですので。
でも、それではぶっきらぼうな中国語になります。
理由は、二文字ではキャッチとして落ち着きが悪い、四文字のほうが意図と内容が分かりやすいということもあるでしょう。そして、〈提醒〉が「~してやる。~してあげる。」というニュアンスを含んだ単語だからということもあります。
そこで、ネイティブな表現が〈温馨提醒〉になるのですね。「心を込めてお知らせいたします」って感じ。
ところでこのポスターが存在している理由は、なんでしょうか。
対象読者は、トイレットペーパーが水に流れない材質でできていて、使用済みの紙は個室内のゴミかごに捨てるという習慣の地域から来た人、ですね。
そしてこのポスターが真に言いたいことは、トイレットペーパーは個室内に放置したりサニタリーボックスに捨てたりしないでください、という禁止事項と、水に流してください、という指示事項です。
その禁止や指示を、日本語だったら「お願い」という一歩引いたタイトルで伝える。中国語でも、〈温馨提醒(心を込めてお知らせいたします)〉という情報伝達を装ったタイトルで伝える。
私が面白いなあと思うのは、その表現と真意とのギャップです。この例は文字に書かれた表面的な内容の奥に具体的な真意が隠れているという恰好のサンプルになってます。
こういう言語習慣を知っているといないとでは、翻訳も変わってきますね。
禁止と指示が含まれている「お願い」を〈心を込めてお知らせいたします〉と訳す。言語習慣としてこうした表現が定着しているから、読者である中国語話者は〈温馨提醒〉という表示を見て内容を理解し、言外に込められている真意を読み取ることができるわけです。それを〈禁止〉〈提醒〉などと訳してしまっては、読者はぱっと見ただけで気分を悪くしてしまうかもしれません。
「意訳」「直訳」というくくりではなく、原文が本当に言いたいことをくみ取って、訳文を読んだ読者が原文を読んだ読者と同じ反応をしてくれるような訳文を作る。そういう姿勢の翻訳をしたいなあ、と思います。
~おまけ~
同じトイレにて。

便座の上にしゃがまないでください、というお願いですね。
言葉で説明するより一目瞭然のイラスト。
ピクトグラムと呼ぶにはちょっとごちゃごちゃしているかな。
10年前の北京でもデパートやマクドナルドの便座が靴底の跡で汚れていることがよくあったけれど、五輪後の今ではどうなんでしょうか。
そういうトイレに入ってしまったときは、さすがにその便座におしりをつけたくなかったので、腰を浮かしたまま用を済ませました。超絶技巧?
~ちなみに~
この写真を撮ったのは、昨年の11月4日のことです。新宿御苑と東京都庁にお散歩に行きました。
すると……。
その日の深夜に陣痛が始まり、翌日11月5日の昼下がり、子供が生まれました!
45階まで55秒で到達する都庁の高速エレベーターの潮汐効果かも?
予定日より十日早かったんですが、安産でした。